「インプラントにすれば一生安心」は本当? ― 知っておきたい”お口の終活”という新しい考え方
はじめに ― ある朝の診察室から
先日、当院にひとりの女性患者さんがいらっしゃいました。お話を伺うと、別のクリニックで「奥歯を抜いて、インプラントを2本入れましょう。1本200万円弱です」と提案されたとのこと。しかも、なぜ健康な歯まで抜く必要があるのか、その説明はなかったそうです。
最初に申し上げておきたいのは、インプラント治療そのものは、決して悪い治療ではないということ。むしろ素晴らしい技術です。ただ、「言われるがまま」に決めてしまうと、後から「こんなはずじゃなかった……」と後悔する方が少なからずいらっしゃるのも事実なのです。
今回は、インプラントで後悔しないために知っておきたい 3つのポイント を、できるだけわかりやすくお話しします。
ポイント①:歯医者さん選びは”家から近い・安い”で決めないで
インプラントは、いわば外科手術。誰でも上手にできるわけではありません。
ところが実際には、
「家から近いから」
「キャンペーンで安かったから」
という理由で歯科医院を選んでしまう方が意外と多いのです。
ホームページを見ても「私はインプラントが下手です」と書いている先生はまずいません(笑)。ですから、口コミや先輩患者さんの感想をよく読むことが大切です。
そしてもうひとつ、何より大切なのが 「先生との相性」。なぜならインプラントは、入れて終わりではなく、そこから一生のお付き合いが始まるからです。「この先生、ちょっと苦手だな」と感じるなら、立ち止まる勇気も必要です。
ポイント②:「総額いくら?」を必ず確認
「インプラント1本15万円」――そう聞くと安く感じますよね。でも、ここに落とし穴があります。
上に被せる人工歯は別料金
骨が足りない人は「骨を増やす処置」で追加30万円
麻酔や検査も別途……
気づけば、最初の見積もりから何十万円も上乗せされていた、という話は決して珍しくありません。
さらに注意したいのが 「一生保証」 という言葉。よく見ると、
定期検診を1回でも休むと保証が切れる
インプラント本体は保証だが、上に被せたものが壊れたら別料金
といった細かい条件がついていることがあります。契約前に「どこからどこまでが料金に含まれているのか」を必ず確認しましょう。
ポイント③:いちばん深刻な”未来”の話 ― 寝たきりになったとき、どうする?
これが、入れ歯専門医として日々診療している私が 最もお伝えしたいポイント です。
インプラントを入れた時はお元気でも、人は誰しも歳をとります。やがて要介護状態になったり、寝たきりになったりすることもあるでしょう。そのとき――
インプラントは、意外なほどしっかり骨に残り続けます。
ご自分で歯磨きができなくなると、お口の中の衛生状態は急速に悪化します。それでも、
訪問診療の歯医者さんは、インプラントを抜くのが非常に難しい
なぜなら、インプラントのメーカーは世界に何百種類もあり、それぞれ専用の工具が必要だから
結果、「他の歯は全部抜けたのに、インプラントだけがニョキッと残り、反対側の歯ぐきを傷つける」というケースが介護現場で問題に
これは、当院でも実際に何度も目にしてきた光景です。
“お口の終活”という新しい考え方
ここで提案したいのが 「お口の終活(しゅうかつ)」 という言葉です。
「8020運動」(80歳で20本の歯を残そう)は、平成元年の達成率わずか7%から、いまや50%超えにまで成長しました。これ自体は素晴らしいことです。しかし――
「自分で歯を磨けなくなったとき、その歯はどうなるのか?」
ここまで考えておくことが、これからの時代には欠かせません。
その点、入れ歯には大きな安心があります。
ご本人が磨けなくても、介護する人が簡単に外して丸洗いできる
壊れても作り直せる
体の状態に合わせて調整できる
つまり、「最後の砦」として入れ歯という選択肢を持っておくことは、人生100年時代の賢い備えなのです。
まとめ ― 後悔しないために、いま考えておきたいこと
インプラントを検討されている方に、もう一度お伝えします。
チェックポイント 確認すること
🏥 歯科医院選び 口コミ・先生との相性
💰 費用 総額・追加料金・保証条件
👵 将来の備え 介護が必要になったときの対応
もしインプラントを選ぶなら、「要介護になったら、上の部分を外して入れ歯に置き換えましょう」と言ってくれる先生を選べると安心です。ライフステージの変化に最後まで寄り添ってくれる主治医かどうか――それが何よりの判断基準だと、私は思います。
ご自身の年齢、そして主治医の先生の年齢。両方をきちんと見据えて、「いまの自分」だけでなく「30年後の自分」にもやさしい治療を選んでいただければ幸いです。
迷ったときは、どうぞお気軽にご相談くださいね。